都市の近くにありながら
今も原生のすがたを残す
世界的にも珍しい「鎮守の森」
春日山原始林は、平安時代に仁明天皇の勅命により狩猟伐採が禁じられて以来、春日大社の神域として、千年以上もの間守られてきた森です。
ひらけた都市の近くに今も原生のすがたを残す森は、極めて珍しいことから、1955年(昭和30年)に国の特別天然記念物に指定されました。
また、1998年には春日大社と一体となった文化的景観が評価され、ユネスコの世界文化遺産「古都奈良の文化財」の一つとして登録されました。
古くから万葉集をはじめ、古歌などに数多く詠われてきた、奈良に欠かせない「鎮守の森」です。
人の手が入った原始林
春日山原始林は、平安時代に禁伐されて以降、全く人の手が入っていなかったわけではありません。
春日山のうち花山といわれる箇所では、東大寺や興福寺が花(樒:シキミ)を採取することからその名がついたとされています。
また、台風被害による倒木などにより、被害を受けた際には、人の手による在来種の補植をおこうなど、原生的な植生が人の手によって維持されてきたと言えます。
信仰・歴史・文化
春日山原始林には春日大社の末社が点在しており、今もなお信仰の対象となっています。
平安時代から鎌倉時代には、奈良の僧たちの修行の場として重んじられ、春日山石窟仏などの史跡が残されています。
他にも、豊臣秀吉によって植えられたというスギの大木や、江戸時代に奈良奉行により開かれた滝坂の道(旧柳生街道)が今も残り、歴史と文化を感じる場所でもあります。
自然
春日山原始林は、シイ・カシなどドングリのなる常緑広葉樹を主とする貴重な照葉樹林が、都市に隣接して残る大変珍しい森林です。
シイ・カシ類の他に「春日杉」として価値の高いスギやモミ・ツガ等の針葉樹、秋には紅葉の美しいイロハモミジやイヌシデ等の落葉広葉樹、そのほか、ツル性植物や、シダ類、苔類など希少種を含む多様な植生が残っています。
また、様々な野鳥、シカやムササビなどのほ乳類、カエルや昆虫などのいきものたちの貴重な住処となっています。
春日山原始林が抱えている課題とは?
千年以上もの間、人々の関わりによって維持されてきた森は、様々な要因から、
その森林生態系を維持することが難しくなってきていると言われています。